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MoNoGaTaRi #1「才能」

主人公は不満である。
認めてくれない世間に対して、そして売り込みが下手な自分に対して。

科学者としての実力はあるはずなのに結果が出せていない。
それもそのはずで、主人公は他人に見せることを疎かにしてき過ぎた。
他人に伝えるのは研究とは別の労力で、それを嫌うのが主人公の性分だった。
だが、見えないものは評価されない、それがこの世界の原則である。
見えている下らないものの方が認められる、
このことは、いかに他人からの評価を求めないできた主人公にも、
許容できない事実としてのしかかった。

自分の生み出したものが認められている世界なら、
どんなに素晴らしい社会になっているだろう。
そこで主人公は「あること」を考える。

過去の決断を変える、自分が過去へ行くことはできないが、
もっと小さな「量子」の振る舞いに干渉する方法は研究されていた。
主人公の力を以てすれば実現できる「過去への干渉」。
しかし、それを公にするのは主人公の性分からしてありえないこと。
一人で研究し、一人で完成させるのだ。ただ自分のために。

この主人公の考えは驚くほどうまくいく。
小さな変化を与えるだけだと最初は思っていたが、
主人公の予想を超えてそれは広まり、主人公も認められるようになっていた。

小さな決断の違いから生じた変化は年月の中で蓄積され、
現代の様相に着実に変化を与えている。
それは、まるで小さな雪玉が転がり続けて周りの雪を巻き込むように、
次第に大きな変化となっていったようだ。
主人公の研究が実現され、発表された技術が広まった世界。

幾度かの干渉をするうち、主人公は気付く。
周りの様相は変化するのに、絶対に変わらないものがある。

それは、過去に干渉するという今の自分。
過去への干渉を繰り返すうちに主人公は不安を増していく。

悩みはなくならないのか。悩まない自分は本当に今の自分と同一人物なのか。
「次に干渉したら今の自分が消えてしまうのではないか」
不満がなく、過去に干渉せず、すべてを他人と共有する希薄な存在に。

主人公は、最後に残された不満を、今、自ら動くことで解決することを決断する。
愛する女性に結婚を申し込むのだ。


***************

それから25年後のその日、主人公は事故で妻を亡くしてしまう。

目の前での悲劇、自分の判断がもっと早ければ助けられたかもしれない。そうだ、あの時自分の決断が早ければ…。

…本当にそうだろうか、
あの時の自分はどうあがいても妻をかばう立場にはいなかったのではないか。

いくら小さな干渉を繰り返そうとも、
自分が考えもしないことは起こしようがないのだ。

そして今、
このような口実を探して自らの保身を図ろうとする自分こそが、
過去を変えられない絶対の証拠ではないか。


主人公は再び過去に干渉する。過去の自分に、事故に飛び込む決断を試みるために。

 瞬間、目の前が真っ暗になる。


次に目覚めたのは、病室のベッドだった。



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主人公


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