主人公は老執事である。
ある小国の王子・王女の世話を任されている。
王子・王女には煙たがられているが、それは「役目を果たしてほしい」と願うあまりについ口うるさく、態度も厳しくなってしまうからである。
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#1
老執事の仕事は、王子に「世間」を見せることである。
世間とは魔の巣窟。どんな悪影響があるとも限らない。世間知らずの王子では、たちまち感化され利用されてしまうだろう。
「教育のためには見せなければならない、けれど見せたくない」
ならば、見せるべきものを選べばよいではないか。
老執事は王子の出会うであろうものに先回りするため、「教育学」「犯罪心理学」など様々な学問に中り、王子の得るべき情報を管理しようと試みる。
老執事は、彼によって作り替えられた社会は確実に王子によい影響を与えているという確信を得るまでになっていた。
王子の交流は広がり、老執事の選んだ人々も協力をしてくれているようである。
王子は以前よりも素直になり、老執事の言いつけもよく聞くようになった。
だが状況は一変する。
王の服喪期間の終わりをついて、大臣たちが態度を翻したのである。
老執事にも予想はできていた。しかし、考えられた対応策は「王子の教育を急ぐこと」のみだった。いくら考えてもそれしかない…、しかし成長した王子にもそれを解決する手段はないだろうことが予想できた。
半ば諦観をもって顔を上げた老執事の目に映ったものは、望むべくもない光景だった。
自分が隠したものが王子を救う姿。
王子には隠していることがあった。
「本当の世間」を知っているのである。
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#2
老執事の仕事は、王女に「世間」を見せることである。
引きこもりがちな王女はなかなか外へ出ようとはしない。
そこで老執事が提案したのが「変装」である。
自分ではない者を演じ、そのようにふるまう。
自分の評価とは無関係に行動できることに、王女は次第に楽しみをおぼえていく。
様々な場所で人との思い出をつくっていく王女。
老執事には役目を果たした安心がうまれていった。
だが王女にとっての変化は老執事の予想を超えたところにまで及んでいた。
「女王候補」
その言葉にいままで意味などなかった。
しかし、今の王女にはその言葉の重さがわかる。
出会った人々の生活が、見も知らぬ人の手で変わってしまうことの恐ろしさ。
他の王家の者には任せられない。自分にしか…。
王女はしかし自分の無力を知る。
「自分ではない存在」であることで免れていたものは、
自分に何も残していないのではないか。
人々の意識に残っているのは自分ではない。
世間では他の候補のことでもちきりである。
このままでは外から来た候補に決まってしまうのではないか。
そう考えたとき、
王女は、本当の姿で人々の前に姿を現すことを決めるのだった。
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