この社会には2つの衣装がある。つまり、「ユニフォーム」と「私服」だ。
ユニフォームは確固とした決まりがあり、仕事や身分、安全性に合ったものでなくてはならない。
そして私服は「反抗」である。決まりがない以上に、奇抜を目指す。
この世界にいる誰もがこの「服従」と「反抗」を当然とし、実行していると思っている。
だが、研究者であり政治活動家でもある、その男は疑問を持つ。
服装というものの個性に思想が縛られている可能性についてだ。
この社会にとって大事なのは、反抗していると思わせて予想の範囲に飼い馴らすこと。
それに気付いた男は、この世界に様々な服装の人々を招いた。
異次元穴を使った転移装置で連れてきたのである。
科学者が自らの計画に利用しようとした人々の中で、
とりわけ自己顕示欲の強い「ある女子高生」が適任だと思われた。
彼女は、元の世界では田舎の学校に通い、服装にしても雑誌で見る程度でそれほど詳しいわけではなかったし、自分を出すということにも抵抗があった。
知らない世界に突然連れてこられてしまった戸惑いで男の声も耳に入らない。
ここはどこだろう、見回してみると自分と同じような戸惑いを浮かべる人たちがいて、
少しだけ落ち着いた。この中で最も落ち着いているのは私だろうと思われた。
男は変な格好をしていた。
そしてどうやら、協力してほしいらしい。
案内を受けて見てまわると、ここは地球よりも進んだ文明なのだと気付く。
ほとんど人間と変わらないのに、なんというか、服装が「一貫して」変なのだ。
話を聞くうちに、私にも何かが起こせそうな気がした。
服装を使った革命である。
そして事実、それは起こせた。
彼女の提案する服装は瞬く間に広まり、世間の目も集まっていった。
だが彼女には一つの心に掛かったことがある。
それは、それが自分の生み出した格好ではなく、雑誌からの受け売りだということだ。
元の世界の誰かが作った格好。
彼女は、それまでのものとは違う彼女だけの服を作りたいと、今初めて思った。
0 件のコメント:
コメントを投稿