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MoNoGaTaRi #26「竜の櫓」

人の能力を超えた存在。
人々を恐れさせ、近付けず「ある場所」を守護する存在。

この世界には、「竜」の生息する地域がある。
人間と竜の交流は、ほぼ竜の側の規定に沿い、四季の「まつり」のみで行われてきた。
人間は竜の行う「まつり」に最大限の敬意を払い、足を清めてその背に乗るのだ。

――矢を射ても死なず、剣をもはじき返す鱗を持ち、一瞬の後には大岩と化し人を押し潰す恐怖の対象。――

竜の文化に合わせて「まつり」に臨むといっても、天空に浮かぶ聖地に降りたときには、余りあるほどの経験をさせてもらったことを感謝しているだろう。

――空に浮かぶ島。そこは、かつて竜と人が共に悪魔を見張ったとされる場所。今は竜のみが立ち寄る島で、強靭な翼を持つ者にしか許されない場所となっている。遥かな高みから人間を見下ろす、これもまた恐怖の対象だ。――

人間の中に竜を危険視する一派が存在することは、主人公の悩みの種である。
人の力を超えた存在、それだけで恐れるには十分であり、大量の税を武器に換えて懐を肥やす一派の常套句もまたこれであった。つまり、「防衛のため」である。

主人公は叩き上げの官僚として、国家の中枢に関わる仕事をしている。
そして、竜の脅威によって隠ぺいされた金の流れを断つことが、今の主人公の役目だ。
考えてみれば、竜による実害は出ていない。境界を守っている限りにおいては、竜の脅威は根拠のない疑いでしかないのだ。
しかし人々は納得しない。根拠のない疑いに対して、自分もまた根拠のない楽観論を述べるしかないのだ。主人公は、納得させなければならない。


主人公は、その博学は認められていたものの、まだ若く、地位も高くなかった。
ゆえに竜との直接のやりとりもできず、解決の糸口さえ与えられない状態だった。
だがそこにきて、今回の「まつり」は主人公にとってのチャンスに思われた。
人間側の何人かの代表のうちになんとか入り込むことができた主人公は、竜と直接話しをつけ、人々に安全であるという「確信」を持たせる策に協力してもらおうと企てる。


そして、主人公は行動に移す。
主人公の考えた策。
それは、「雨を降らせる」というものである。
もちろん竜にもそれはできないだろう。
だが、それをやることは少なくとも人間たちの認識を変える。
食料を求める生物の姿を見せること、
ついでに人のためにでもなりゃ、一石二鳥だ。



その日、大勢の人が空を見上げ、

そして、小さな水の粒が一滴、二滴と、見上げる顔に当たった。

小さな贈り物だった。

だが、人々の顔には、大雨に打たれたような清々しさが満ちていた。

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