html

About    Concept    Works    Contact

MoNoGaTaRi #27「謎の人物」

「そこに意味がないことは明らかだ。」 そう主人公は断言する。

この世界には完全な教育課程が存在する。
その中には、あらゆる「価値のあること」が体系化され、
すべてのやりたいことに対する適切な手段が指南されている。

主人公もそのような教育課程の中で、生きてきた。
必要なことを身に付ける合理性と、知識からくる論理性が主人公には備わった。
しかし、それでも決して敵わない存在というものに出会ってしまったら…。



知識の量、その年齢にして努力の数は計り知れない。
運動能力、自己を制する精神力は圧倒的にその身体に表れている。

およそ常識的な範囲で生きてきたとは想像もできない相手だ、と主人公は感じた。
だが主人公は「相手」を克服しなければならない。
自らの価値を、すべての意味で上を行かれたまま生きることは、主人公には許せなかったのだ。
この「謎の人物」の正体を暴き、克服するのだ。


「相手」は街を歩けば声を掛けられる、評判の「問題解決屋」だった。
主人公には、「相手」にどうしたら勝てるかわからず、ただ後を追うことにした。

いくつもの事件、問題を解決するその「相手」。
その「相手」を手本として、いくつもの事件、問題を解決する主人公。

だが、気付くと主人公もまた「謎の人物」として、他の者たちから追われるようになっていた。


「謎の人物」であるためにはすべてができればいい。
だから主人公も「相手」も、「謎の人物」だろう。

だが、主人公が追う「相手」は「謎の人物」としてではなく、「問題解決屋」として認知されている。
「相手」と主人公の決定的な差はなんなのか。

直接話してみたいと主人公は考えた。
これまで後を追うだけだったが、今回は先に事件を解決してやろう。
――かくして、主人公は「相手」と話すことになった。


「私はあなたが私を追ってきたのを知っています。」

「しかし、他の人はあなたの目的を知りません。」

これは決定的であった。
「相手」からもたらされた言葉に、主人公はこれまでの行動を思い出す。

主人公が行ったあらゆることの理由は「相手」であり、
周囲にとってそれは、目的のわからない行動に映った。

だから、「謎の人物」なのだ。

主人公が自分を認めさせるには、行動の目的が自身になくてはならなかったのだ。


主人公は納得する。
そして自分のしてきたことの意味を考える。
自分のこれからすることの意味を考える。


いずれ、追ってくる者たちにも話してやらなければならないだろう…。

0 件のコメント:

コメントを投稿