この世界には「常識」というものが確固として存在している。
それは「常識」という本に書かれており、その内容は人類のあらゆる言語に翻訳され、さらには近年の電子辞書にはほぼこの内容が収録されるほど人の間に浸透していた。
この本の内容は、誰もが納得するものである。
しかし作者は伏せられており、その制作過程も謎に包まれていた。
事態が変化したのは最近のことだった。
どうもその一説に異議が持ち上がったらしい。
主人公はこの本の作り直しを求められている。
なぜなら、それは彼の祖父が作ったものだからだ。
主人公の家系は古くから、ある国の王族の側近として重用されており、一種の信仰を得ていた。
主人公は困惑した。
祖父がどのようにその本を書いたかなど聞いたこともないからだ。
だが何とかして直さないと、この世界から「常識」が失われ、混乱が生じるだろう。
そう思い、常識について詳しいだろう3人を助手として迎えた。
人数が多すぎてもまとまらないと考えたからだ。
3人は3様の考えを示してくれた。
「前提の問題」、「整合性の問題」、「解釈の問題」。
どの視点も「常識」を直すのに十分な手段を示せると感じた。
そのなかで最も楽に直せるのは、「解釈の問題」と考えたときのように見えた。
それは、この本の内容は正しいが、解釈の仕方が間違っているというもので、…だがこれは気が引けた。
そして「前提の問題」と考えたときには、この本の価値はなくなってしまうだろう。
それは、この本にはそもそも正しいことを書くことが不可能であるというもので、…だが祖父の努力を無駄にするわけにはいかないと考えた。
残るのは、「整合性の問題」と考える方法で、これには本当に骨が折れそうだ。
それは、個々の意見を全て考えたうえで、正しい考えを調整しながら作らなければならず、それにはとても人間の一生ではできなかっただろう。
それを伝えると、2人の助手は私の元を去ってしまった。
もしかすると、祖父も途中までしか成し遂げられなかったのかもしれない。
しかし、途中までの「常識」で、これほど意味があるものとは…
これは一生をかける価値がありそうだ。
君もそう思ってくれるだろうか。
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