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MoNoGaTaRi #13「本来」

水の中で息はできなくても、水を押しのけて動かなければならない。

気圧のない宇宙で、身体がぶよぶよになりながらも動かなければならない。

マグマの中で、制御できない熱に包まれながらも動かなければならない。

頭の中で、自分とちがう価値観を認めながら動かなければならない。



不自由なところで自分なりの動き方を会得するというのは、
他人の精神世界を渡り歩かねばならない主人公にとって最も重要な能力だ。
どう乗ればどう動く、どう力を加えれば望みの場所に行けるか、
それは人によってちがってくる。

生きるための動きはこの世界では通用しない。
ただそうであると思われていることがこの世界のルールとなる。

仕組みのわからない仕掛けに自分を合わせていくことが唯一の方法だ。



主人公は「医者」である。
主に脳の組織に関わる治療をしている。

主人公の仕事は、まず患者を「目覚めさせること」。
生物の基本として、意識を持ち、考え、表明できる状態は善である。
主人公はそれを根拠として治療を行ってきた。

しかし、患者に「考えさせること」については迷いを持っている。

治療をするということは「本来の姿」に合わせていくということである。
しかし、どの精神世界にも独自のルールがあり、心の仕掛けがある。
考えさせることで与えた「それ」は、本来の姿なのだろうか。


その人の本来あるべき心とはなんだ。


主人公は知らなくては治療を続けることはできない。

脳の仕掛けに直接関わっている主人公にすら判然としない、
その人の「本来の心」。

主人公はいくつもの精神世界に入り、自身を同調させてゆく。

「本来の心」を見つけるために。

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