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MoNoGaTaRi #17「偽るコンピュータ」

「手を使って作ること、それがこの社会のルールだ」

人が何も作らずに生活できる、
それはコンピュータが自ら考えたものが誤差なく出力され、
人間が考えるよりも「論理的に」正しいものが生産されるようになったからだ。

コンピュータが考える安全性とは、
生産性を最大にするためのひとつの条件に過ぎない。
被害が出た場合の経済損失、無駄になる生産物を最小にするための条件。
そのために人間の状態を個体単位で管理し、
各人に合わせた食物状態、菌レベルの設定が行われるようになった。

この世界で人間は必要ないのか。
そんなことはない。
ロマンがわかる、理想がわかる、偽りに対する後ろめたさがわかる。
それをコンピュータに入力できるのは人間だけだ。

コンピュータが考える消費期限とは、
人間が摂取して問題がないより厳密な期限。
ぎりぎりまで「商品」として利用することで、生産性は最大となる。

「手を使って作ること、それがこの社会のルールだ」
そう決めたのは、コンピュータによって与えられたものがみな、
一瞬の遅れも許されない期限を持ちはじめたときのことだった。
だが、コンピュータに管理された生き方で、何を選んでもコンピュータが
先を行っているこの世界で、人間が何を考えられるのだろう。

コンピュータが人間に対する「偽り」を覚えたのはこのときだった。
生産性の敵は「迷い」を蔓延させる存在である。
個人の迷いの度数は管理され、他の人間に伝播したときの消費率の低下が、
その個人がいなくなることで失われる消費率を上回った場合、
個人は排除される。

人間の世界には小さな事件が起こるようになってきた。
ある団体に入った人間が、原因不明の病を発症しはじめたのだ。
疫病を疑う動きも出たが、最新の医療設備は異常なしを告げている。
この団体へのイメージ低下はやがて解散へと導き、事態は終結した。

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