html

About    Concept    Works    Contact

MoNoGaTaRi #18「特許制のある風景」

おそらく、話をできるこれが最後の機会だろう。敵でなければ悩まなくていいんだけどな…。面倒だ。
「や、やあ、はかどってるかな。」
「…知ってるよね。定期発表会、見てたでしょ。」
「そりゃまあ知ってるというか。」
同じものを目指す人間は、同じ場所を奪い合うライバルであり、蹴落とし蹴落とされる相手でしかない。
「ちょっと気付いたことがあってさ…。」
「へぇ、それは助かる。何。」
一人が一つの役職を担当し、他の誰にも侵入させないことができる制度。最初に形にし、名前を付けさえすればその人のものとなる。だから発表したものについては安心、それが心情というものさ。俺がそうだから。
「なるほどね。参考になった。早速考えてみる。」
「そりゃよかった。」
おっと、
「特別許可制について、どう思う。」
「どうって、いきなり。」
「例えば、役職があることでできないこととかさ…。」
「それなら、儲けにならない研究をしなくなる…とか。」
この制度で問題がないわけではない。一瞬でも申請が遅れれば今までの努力が無駄になる。だから多くの人が冒険することを諦めざるを得ない、そういう風潮がある。
「あとは…、研究意欲の低下かな。高度な分野になるほどリスクが大きくなるし。」
「それじゃ、もしこの制度がなかったら君は何を作りたい。」
「いきなり言われても…。」
この程度の意識なのだ。現状に満足していれば言ったところで理解されない。
「…どうしたの。」
「いや、なんでも。」
「言いたいことがあれば、言えばいいじゃない。」
「そんなに大事なことじゃないから…。」
大事じゃない。大事じゃない、か…。
「……。」
「…それじゃ、やらなきゃいけないことがあるから。」
…やらなきゃいけないこと。制度のためにやることの何が大事だっていうんだ。
「…実験データをまとめるの。」
それは一生敵であることを受け入れるということじゃないか。
「研究室を出…」
「その前に大事な事がある。」
信じるしかない。それしか現状を変えることはできない。
「俺の研究について話す。」

0 件のコメント:

コメントを投稿