なぜ自分の周りのものだけが壊れていくのだろう。
主人公はそれに悩みながら生きてきた。
―この世界に「壊れたもの」は存在しない。もし壊れたとしてもそれが設計された姿に復元する仕組みが世界を覆っているからだ。
しかし、主人公は「壊す」ことができた。
主人公が長く触れるものは影響を受けて劣化するようになり、
一定時間を過ぎると復元できなくなる。
その原因は主人公が生まれたときに混入した設計ミスにさかのぼる。手術によって命をつなぎ止めるには「復元能力」か「脳の一部」か、どちらかを失わなければならない。
その選択に際して両親は、「復元能力」犠牲にすることを決めた。
それは主人公に物心がついて間もなくのこと。
自分が触れると壊れるということは、周囲から何かを奪ってしまう。そして人を遠ざけてしまう。主人公は自分が異常であることを隠すため、できるだけ元の形になるように、自分の手で直すようになった。
主人公は育つにつれ親を恨むようになる。
「明らかに復元能力の方が大事じゃないか。」
だが同時に、何かを作りかえる技術だけはついてくる。
主人公が成人して間もなく、いつものようにすり減った工具の代えを買いに来たデパートで事件に遭い、平穏な世界は突如変化する。
これを始まりとして3年周期で起きる「大規模破壊」。
原因不明。なぜならば、手掛かりは跡形もなく「復元」してしまうから。
被害者はいない。ただ事件の記憶と、以前あった「何か」を失っているようだ。
主人公は徐々に、この事件に積極的に関わっていくことになる。
3年間を準備に充て、事件に赴く。
壊れた建物の中を、ときにはさらに壊しながら道を拓き、
自らの培った技術で道具を改良しながら障害物を越えてゆく。
そして真実への手掛かりは集まってゆく。
この世界の隠れたねらいは保存しておくこと。
同じ姿で決められた結末を繰り返すこと。
しかし、いつかこの安住の地から自らの足を踏みださなければならないこと。
事件は痕跡を残さなかったが、人々の意識の中には確実に不安を蓄積していった。
そしてこの箱庭の世界から脱出を試みるとき、
先頭には、道を開く主人公の姿があった。
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