私は大丈夫だと心の底から言いながら、
けれども教え子たちには違うふうに映ることだろうなと想像してみた。
境面の向こう側では私たちは生きられず、だが同時に、
そのことは私たちにとって無関係なことなのだった。
例えば、
私がヒレを強く蹴ったとしても一秒もかからず境面の内側に戻ってくるのだから、
気をつけることなど何もないのだ。
だけれど、伝えなくてはならない。悔いたときにはもう、生きてはいないのである。
人魚は水の中、猿鬼は空気の中、水と空気の境面がそれぞれを隔てている。
「釣られる瞬間、その行動を悔いる」
ということを伝えるのが、この学校の目的である。
学校で教えられることには、猿鬼は人魚を食うらしい。にわかには信じ難いが。
ときおり何人か行方不明になることがあるときには猿鬼の姿が見られていることから、おそらく連れ去られてしまったと考えるのが妥当だろう。
このところ水温が上がり、境面によく獲物がかかる季節になってきた。
食欲旺盛な教え子たちも喜んでいる様子である。
しかし同時に波乱の季節である。
教え子の数人の姿が消えていたのだ。
あれほど昼間の食事に気をつけろと言っておいたにも関わらず、
どうやら境面の向こうに連れ去られてしまったらしい。
息のできない空気中では、おそらくもう……。
このままでは教え方が悪いようだ。
何かよい教え方はないだろうか…。
そして私は、「水を境面の外に持っていく服」を作った。
安全を確保したうえで境面の外へ出たならば、
境面の外へ連れ出される仕組みを説明できるし、猿鬼と話すこともできるだろう。
そう考えた私は教え子たちを集め、
そして、
境面に漂うその赤くてうまそうなものに、
堂々たる面持ちで、
食いついた。
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