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MoNoGaTaRi #31「迷惑防止法」

―不快を規準にする社会は、誰かの不快を想像するようにと勧めた―
『迷惑防止法』が施行されてから、あらゆる苦情が一ヶ所に集められ、
すぐさま訴え、賠償を要求することが出来るようになった。

しかし同時に、文化の縮小は徐々に姿を見せはじめ、一部の研究者は明確にこれを問題であると断言するほどになったのだ。
迷惑であると誰かが感じるならば、それを行うリスクを払ってまで行う必要はない。このようにまず、各地の「祭り」は減りはじめ、各地のイベントがこれに続いた。

これほどの影響を示しているにも関わらず、訴状の集積は勢いを衰えさせず、
日々国民から寄せられる不快の申告はとどまるところを知らなかった。


増え続ける申告と戦う主人公は、広告事務所のリーダーである。
このままでは文明は急速にしぼんでいき、最後には何もせず毎日を送るただの生物が残るだけだろう。それは嫌だ。

この法律をどうにかして無効にしなくては。
そのためには、この法律を不快だという国民の感情を集めなければならないだろうと考えた主人公は、大きな広告を企画する。

この広告には危険がある。
広告というものを迷惑だと考える人は多く、多額の賠償金を要求されることになるだろう。広告と迷惑どちらが生き残るかは、主人公の支持者から寄せられる支援金と、法律の支持者が要求する賠償金との力比べになる。


主人公はできる限りの根回しを済ませ、決戦に臨む。

街頭活動、テレビ放送の占拠、ウェブでの支援要求。
押し寄せてきたのは、支援ではなく不快の申告であった。

賠償額の思わぬ高騰に主人公はショックを受けた。
一生返せそうにない賠償額は、さらにその桁を上げてゆく。

頭の中は真っ白になり、全身の血が引いていくのがわかった。

(頭が重い…。こんなことしなければよかった…。)

……。

(何時間が過ぎただろうか…。)

バタバタと足音が聞こえる。
どうやら事務所の床で眠ってしまったらしい。
そして昨日のことを思い出し、再び体がだるくなる。

それにしてもバタバタとうるさい。
失敗した自分など切り捨てて、さっさと新しい生活をはじめたのか。

薄情者どもめ…。


突然、衝撃とともに引き起こされた。
見回してみると、神妙な面持ちでこちらを見る同僚たちが映る。
そして、勧められるままに昨日見つめていたモニターをのぞき込む。

やっぱりだ。
昨日と変わらない。
むしろその数字は増えている。

この結果を皆はどう思っているのか知りたくなり、
一番近くの者から言ってもらうことにした。


「最高です。」「最高。」「最高としか…。」「考え得る、最高の結果です。」
そして破顔一笑。

主人公は恐ろしくなり、モニターを再び見た。

そして同僚たちに振り返った主人公の顔は、
もはやこの世のものとは思えぬほど引きつっていた。



『迷惑防止法』は打ち破られた。

それは、夜に省みられ。
朝には訴えの取り下げが相次いだのだ。

主人公はすでに新しい朝にいたのだ。

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